さっき、出さなくちゃならない手紙を持ってポストまで歩く中、昨日の37℃と打って変って、さらさらの湿気の少ない朝の大気の中、風に吹かれて、やっぱりもう季節は移ろってる、ピークは越したんだ、時差はあるけど…と皮膚で感じながら、
頭の中で、昨日のチョコは逃げだったんだ、とはっきり悟った。

もう何週間も前から、つかみたいけどつかめない、書きたいけれど書けない、ことがあったんだけれど、
製菓材料店でチョコレートをお土産に買っていただいた同じ日に、そのことをリリースできる突破口が与えられて、
言ったら、ほんとは3か月前から向き合わなきゃならないことになんとか触れられそうになっていたのだ。


最初は気軽に感動した。でも知れば知るほど、相手は巨大で不可思議でつかみどころがなくて、圧倒的で、もちろん簡単に相撲なんて取ってくれないし、ピッケルをちょっと引っ掛けることさえできない、くぼみなんて、疾うに本人が完璧に舐めつくして、どんなちっちゃなへこみだって見落としていないんだから。あまりにも、あんまりにも粒子が細かすぎる。だから、こんなの逢ったことなくて、びっくりして、どうしていいか分からなくて、ただただ敬服するしかない、と思ってしまう。ほんの何パーセントかは、その完璧さに、完璧を極めすぎた人間臭さと職人気質が匂い、えぐい嫌味と人間の頭の悪さも、ほんのちょっとだけ感じとれる。でも、だからそれが分かりやすいヤサシサ(よく人間が使う言葉、ゆったら親しみやすさのことかな、チャーミングなところ)で、少し触らせてくれるポイントで、ピッケルが唯一かかるポイントなのだ。

アンリ・シャルパンティエ。
製菓材料のチョコレートはまっさらで楽だけど、
このクッキーは情報が多すぎる。箱を開けて、見て、食べて、一個づつ食べて、また食べて…どんどん何か来るから、
アップアップしちゃって、わたしは溺れそうになった。

わたしは、たぶん、このクッキーに初めて逢ったんだと思う。
ちゃんとした記憶では、データを照会できないように感じるから初めてだと思うんだけど、でもあとで書くように、マークとか、リボンの色とか、パッケージのデザインを何だか、知っていたような変な気がするのだ。名前も、なんでだろう!変に、…懐かしい?なんで懐かしいんだ?懐かしいみたいな気分にさせられる音…。

これはいただきものだった。
開けてみたら、何の変哲もないアイスボックスクッキーみたいなのが行儀よく並んでいた。
特段デコレーションやトッピングがあるわけでもなく、見た目凝ったところもあるわけでもなく、形もいたってオーソドックス。

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最初は個包装じゃないとこがいいな、とだけ思うくらい普通に見えた。
あら?とちょっとエラそうに「評価」したのは、エッフェル塔に切り出したピックだった。
これでクッキーをひょいと取ってね、という意味ね、PETIT À PETITと書いてある。

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すこしづつ。そうだね、日本の和菓子の黒文字的。でもこういうデリカシ―というかケアが洋菓子であるのは、珍しいのかな。洋菓子なのに日本の芸事みたいな匂いする…。
プチ太、とかタイトル付けて、ブログにあげちゃおうかな~!と、このブログがスタートして間もなかった6月の始め頃、わたしは単純にそう思った。あら、かわい♪いいじゃん♪くらいに。だからせっせと写真を撮ってある。
でも、なんかタイミングを失ってしまって。なんか、それでは浅いとも思った。なんかそんなことだけじゃないような気がしたんだと思う。
わたしはいちご味のを一個だけ食べて、あとは食べずに、お客さん用に取っておこう、と缶の蓋にまた丁寧にテープを貼り直して、そしてなぜか、また包装紙まで包み直して、リボンもかけて「保管」した。

でもそれから、7月に入って、レッスンの時にタイミングがあったから、お相伴する。

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わたしはブルトンの、ブルターニュのガレットを初めて食べた。美味しかった。むちゃくちゃ美味しかった。
なんなんだ…これは!

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とっても上等の、とびきり上等のバターを使っている違いなくて、豊かな香りが、その控え目な小さなサイズのクッキーから広がった。
ほろほろと間違いなく崩れる感じ、側面のテクスチャーのザラザラした素朴さ…
わたしは混乱していた。なんか、つじつまが合わなかった。データが錯綜した。
これはブルターニュのガレットに違いないけど、でも、フランス人はこんなサイズでは作らない、こんな細かさでは作らない。見た目の細部のことではなくて、ケアの粒子の度合が不自然なのだ。絶対こんな小さなコテコテした手の中で愛でて作り込んでしまった世界にはしない。大きさや形も、結果、こうはならない。やっぱり和菓子みたいな気がしてしまう。厚みは合ってる。ブルトンだから、厚いのだ。でもこの直径とのバランスの感じ方はなんか違う、もっと個人的なひとりの職人が編み出した、日本人的感性で抽出した究極の個性のかたちのように思う。
でもアンリ・シャルパンティエって名前、きっと発祥はフランス菓子なんだろうから、かりにフランス人のお店でないとしても、あっちで長いこと修業した日本人が戻って開いたお店だろうにな。この人、フランス菓子のフレームの中で、コテコテに和菓子やってるみたいではないか。でも、和菓子にも伝統のスタイルと形という、さらっと巻かれてしまえばいいツールはあるのだ。でも、この人はそうしたくない、個、の強さ、エグさ、切なさの先に、解放を見いだそうとする闘いがある。ものすごく美味しい。涙が出るほど美味しいよ。でも、なんか切ないんだ…、美味しすぎるから。

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またピックの動作を確認する。今度は美しい手の方にやっていただいて、
その上この方はアンリ・シャルパンティエをよくご存じだった。
もちろん知っていますよ。芦屋のでしょ。この焼きチョコみたいのが美味しいですよね~!
この中で唯一甘くないこのチーズのも好き。
私もこの缶、使ってますよ♪

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なるほど、チョコも入ってるのか、食べたら確かに焼き上げたようなサクッとするチョコレートだった。
なんと綺麗な四角だろう。角の形や厚みまで決め込まれすぎてる。この職人さんはこの形を編みだすのにどれだけかかったんだろう?それとも天才的に一発で決めたのだろうか?綺麗だから、取るたびに、いちいち眺めなくてはならない…。感じるのに疲れてしまう。
サクッとするけど、やっぱり、細かい。それは特に物理的にもキメがやたら細かかった。この焼き加減でピッタリに止めるんだろうな…とにかく、すごい。ビターなカカオの風味が感動的に細かい粒子に乗って舌の上でシュルシュルと溶ける。

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どれも、どの子も、小さな素朴そうな顔して、仕切りの中でおりこうさんみたいな顔でなんでもないですよ、みたいな風に座ってるのに、食べると、素朴だからこそ、ガチで勝負してるその美味しさがガツンと来て、は~やられた…となるクッキーたち。

薄めのサブレで、手造りっぽい懐かしい感じにダイヤ型の切れ込みが入ってて、卵黄が塗ってあってこんがりツヤツヤしてるの、中にゆるい淡~い味のチョコレートクリームがはさまっているのも、あーなんとしたことか…。
もうおいしい、としか言えないのです。
クッキーの断面がそもそもおかしい。まん中は厚く、縁に向かっておかしな感じに薄くなっていって、はかない感じになってる、という演出。
生地とクリームの柔らかさの度合が完璧で、バターたっぷりのほぐれるクッキー生地はガレットブルトンヌのそれとはまた違った柔らかさで、粉との混ぜ方で、ホロッとなり度合が違う。もしかしたら粉も違うのかもしれない。
クリームはあんまりカカオを立てないで、しっとりとしたクリーム感で生地に沁み込むようで、それに卵の香ばしい健康的な味わいが全部をまとめてくれます。完璧なハーモニー。こんなちっこいクッキーなのに、こんな広い味わいの世界…すごいな…うん、すごすぎた、たいへんすぎた。

あんまり大事に食べたから(笑)、最後の方はしっけてしまったけれど、しっけてもなお美味しかったと言いたい(笑)。

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最後の5個になるまで、セロハンテープを毎回巻き直して(笑)(個人的に使う用のヤツだけど(笑)。縁にケバケバがひっついちゃって、外用にはもう使えない。前にTちゃんという生徒さんがレッスンで来た時に、これに目を止めて、そういう風にズレちゃってるの、おばあちゃんちで見たことあります。なんでそうなるんだろう?ときょとんとしていたけれど。まるで、それが持つ人の年齢と関係があるかのように無邪気に言っていたのが可笑しかった)、包装紙の柄を矯めつ眇めつ眺め、このちょっと厳ちくて古めかしくて、でもやっぱり今でも洒落て見える職台のマークはなんなんだろう?とか、リボンを眺めては、うっかりするとよくありがちにださくなっちゃうこの赤の色に、オペラのピンクが混ざったうまいこと調整しきった華やぎのある夢のある色合いはなんなんだろう?とか、しつこく考えつづけました。
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ひとつ良く分からないことは、
このPETIT À PETITの缶の柄でした。これはどうなんだろう?なんか合ってない感じじゃない?どうしてこうなんだろう?ちょっと変にカジュアルでタッチも公共のマンガみたいで。これはおんなじ人のアイディアだろうか?感性に合うのだろうか?



数日前に、このアンリ・シャルパンティエのクッキーを下さった方と共通の知り合いにお会いする機会があって、
あんまり美味しかったから、これまで感じたことをかいつまんでお話ししたら、その方は、アンリ・シャルパンティエが芦屋のお店しかなかった頃に行ったことがある、と話してくださいました。

芦屋に1969年って。
そう、でも芦屋って言っても(笑)、お金持ちじゃない方のエリアなんだよ。
せまーい店舗でね、小学校の机と椅子みたいなのが並んでる間にね、なのに(笑)ワゴンが通るんだ。
あ、そこでも食べられる?
そうだよ、ケーキとか。その頃は…美味しかったけど、めんどくさい職人っぽい出し方でね、たしかに美味しいの、
でも、やれ、この粉はすべて手で振るっていて一切機械は使わないから、この細かさはそうでないと出せないとか、いちいち能書きを垂れてね。でも、そのうち急にデパートに進出するようになった。
えっとね、……アンリ・シャルパンティエは、…アリタさんという人が始めたお店で、「アンリ・シャルパンティエ」とは19世紀の料理人だって。と、スマホで検索してくださいました。
やっぱり、フランス人のお店じゃないんだ。なにかオマージュみたいな感じで名前、付けたのかな…。

自分でも初めてそこで、スマホで検索したら、
2015年に銀座にメゾンもオープンしたとのことで、ものすごく有名な洋菓子屋さんだったのだ、と初めて知りました。
わたしは、このクッキーしか知らないけれど、他にもたくさんの種類があることも。
だから、このクッキーは全体の中ではカジュアルラインで、生菓子のエレガンスとあえてコントラストを付けるために、
缶はあのようなデザインにしたのかな、などと思ったのでした。

…ここまで書いたら、
憑きものが落ちたように(笑)、スッキリしました。
もう、これで終われます。
もう、アンリ・シャルパンティエのクッキーを怖がらずに済みます(笑)。
これでふつうに、美味しくいただけます。
は~!!(笑)

でも、クッキー以外のも全部食べてみたいです。
これは、たいへんなワールドだもの。

しつこく書いたものを、お付き合いくださって読んでくださって、
ありがとうございました。

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