予定していた喫茶店がまさかの満席で、こんなの初めてのことだったのだけど、
駅よりちょっと離れた住宅街の中の小さなカフェへ、よかった開いてた。

これと、これです。
目を細めてしまう。
壁にいくつかのランプが灯る、でも暗めの店内。艶やかに木目が照らし出された古美の、焦げ茶色のテーブルの上に置かれた二袋のジップロック。底に見える濃茶色の塊り。
今日は仕事の打合せだけど、わたしにとってはどっちかって言うとこっちが本命…なんて(笑)。

ひとつは、4ミリぐらいに浅めに流していくつかの正方形にカットされてる。
もうひとつは、一枚の厚め、1センチ弱ぐらい?の板型に流しこんである。
チョコレートだ。

某有名洋菓子店の新作(?)のお菓子に使うチョコレートの選択、その最後の二種?
最終的にはどちらになったのか分からないけれど、そんな魅惑的な「材料」をちょっと味わせていただけるなんて、
なんと光栄なことだろう。

ありがとございます。
薄い方を。
思ったより柔らかい。
そして、驚いたことに、
…木の実みたいな味がします…。
えっと…あの、木の実です(笑)。そうですよね?カカオって実ですよね?そのこと知ってたけど、実の味感じたことなかった。これ、実とか皮の匂い…フレッシュなんだな、こんなに…こんなの初めて食べた、生っぽい果物みたい…目をパチクリさせながら、ひと欠け割ってくださった厚い方も。
こっちの方が生っぽくない…実の臭さが遠くに行ってしまって、手前にもっとなんか穀類みたいな平べったいものが広がる感じがするぞ…ローストが深いから濃くて、甘味も詰まった感じがするのかな、こっちの方が普通のチョコっぽいバランスなんだろうな…もう一度薄い方、うーん!比べるとツーンってする香りと酸味があるし、それに軽やかなんだ、爽やかというか…
このお店のものじゃないものを口に入れてるから、小さい声で、アクションも入れないようにこっそりこっそり…。

ササッとクルッとジップロックを丸めて、紙バックに入れて、それをパスして下さる、あとは帰ってからどうぞ…目くばせで合図を受けて、ハイ。
あーなんとウマいもの、いただいちゃったんだろう…チビチビ食べよっと、でもコレ、もう出逢えない味になっちゃうのかしら、この塊り全部たべちゃったら…なんて、
今もらったとこなのに、すでに食べ終わっちゃったことを名残惜しんでしんみりした気分になったりして、
なんという忙しい食い意地だろう…と我ながら呆れたことを思い出すけど、そんな風に思いを巡らせたのはたぶん、時間にして1秒の三分の一もかかっていないんだろうな、と書いてる今思う。

手帳を出して、カタカナで聞いたその洋菓子店の名前、綴ってみたけどイマイチ意味の通る言葉にならないから、観念して検索したら、
あーそっか(笑)、助詞だったのね、フランス語も英語もわたし、ずい分あやふやになりました、笑いながら名前の和訳をお伝えして、
最近は外国の生徒さんも減ったし、外国語も外国に行くのも自分があんまり興味がなくなっていることをお話しする。
それなのに、そしたら?来月から新しい外国の生徒さんふたり来るんですって、ひとりは先週見学にいらして、北欧の方だったかな?初めての国の方、スウェーデンだったかな?
そうですか、時間と言えば(その洋菓子店の名前は、時、に関するフレーズでした)、駅でもらったその雑誌に、バックに入ってるやつです、時間に関する記事がありましたよ。
パラパラパラ…?一番後ろです。パラパラパラパラ…?一番後ろのページです。
見てるはずなのに、目に入らない、パラパラ…三回もページを繰ってやっと見つけたページ。
あぁこれですね!
読みかけたけど、すぐ辿り着けなかった不可思議さが目の前にボヨンと透明のゼリーのように余韻を残していて、
何を書いてあるのかちっとも読めない…変だな、バカだなアタシ、間違えようがないのに、なんか奇妙な感じがする、
触れないバリアーみたい?頭ぼーっとしてる?…

お店の女主人がにこやかにやってきて、なにになさいます?
先生はこのお店のコーヒーにされて、わたしが迷っていると、
紅茶にされます?ハーブティーもありますよ。セーデルティ・北欧のものもあります。
と、こんなにここのご主人がメニューをおススメすることもこれまでなかったのでちょっと驚きながら、そっか今日は紅茶の日なんだな、と思いながら聞いてると、
ほら、サージョンというのがありますよ、メニューを指して、サーが付いてるの、これは?と先生が決めてくださった。
スウェーデンの紅茶。
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ジャスミン大丈夫かしらー?
ショパンの二曲目、さっきより結構シリアスな感じの曲が流れる向こうから、女主人が大きなたおやかな声で聞く。
…この曲は、ちょっとじめっとしてて、ブラックジャックの思い出がある。
小学校三年か四年生の夏、母がさんざん練習していた曲だ。自分で弾いて歌いきれないところを母は知らずに声に出してるんだけど、ゔ~ゔ~地面を這いずるようなドスの効いたおかしな声が、ピアノの音とおんなじぐらいのボリュームで多重音になって聞こえてくる、毎日、毎日。その夏に行った乗鞍のペンションの応接室に手塚治虫のブラックジャックがあって、初めて見るそのグロテスクでなにか踏み入れてはいけないところのすれすれを描いているような画々の記憶が、あの音がぴったり張り付いてしまった。
もしかしたら行く途中の車の中でもかけてたのかもしれないな…あのゔ~ゔ~は家族の中ではいつもの笑い話なんだけど、この前姉にこのことを話したら、ブラックジャックのことは覚えてたけど、この曲とはリンクしていないようだった。当たり前といえば、当たり前なんだけど、わたしはちょっと面喰ってしまった、あの時当然みんながそう感じてたと、それまで思ってたから。記憶の整理の方法ってみんな違うんだわ…。
ジャスミン大丈夫かしらー?ハイ!
角の丸い、ちょっと間伸びした語尾をゆっくり発音する話し方を、そうだったな、と思い出す。たぽんたぽんしてていい気持なのだ、この人の声は、だから、重く暗くちょっとエキセントリックでもある音の並びでも、それが中和されて、それがただ自然に繊細に連なる低く響く旋律に聞こえる空間になる。

それから、しばらくしてまたカウンターの向こうから、
レモンピールも入ってるけどー?
(笑)大丈夫でーす!


細く背が高い、百合のように大きく口が開いたカップが前に置かれた。
フワーンと立ち昇る香り。♪ふんふん嗅いでいると、
カウンターから、ウイスキー入れますー?
先生と顔を見合わせて、ハイ!
香りが強まると思いますよ。テーブルの脇に立った女主人は、わたしのカップに添えてあるティースプ―ンを手にとって、琥珀色の液体の入ったポットからひと匙、カップに。

一口。
あのね、あのですね…わたしは言葉に詰まってしまった。なんて言えばいいのかしらコレ?
あのね、干し柿のヘタみたいな匂いがする…言っててもう少しなんか言い方ないかしらとちょっと恥しくなる…うーんと、うーんと…(口の中でふんふん嗅ぎ続ける)
そうだ!酸梅湯に似てる!サンメイタンって先生ご存じですか?ううん。あの、中華街で売ってる、中華料理屋でも時々メニューにあるんですけど、梅のシロップなんです、お水で割ったり、ソーダで割ったりして。
それがね、梅を灰の中に入れて…燻すっていうのかな、なんか古めかしいいい匂いがするんですよ。わたし大好きで、昔結構飲んだなぁ…当時は中華街でも置いてるお店が少なくて、てくてく歩いてやっと棚にあのラベルを見つけた時の喜びがジョワッと吹き出した。(後で調べたら、正確には、材料の烏梅と呼ばれる真っ黒なその梅は、未熟な梅を籠に入れて釜戸の煙で黒く燻し乾燥させて作るとのことで、漢方薬でもあるそうです)
さらに一口…わかった!!!!町田に薬師池っていう公園があって、小さい頃よく行ったんです。そこにね、お医者さんか薬屋さんの古い家を移築して建ててあって…
ちょっと飲んでみた先生は、うん、納戸の匂いだ(笑)って。
その土間の匂いなんだね。
そうなんです!あの煙った匂い!あの茅葺き屋根のお家の土間の、大きな丸い釜戸があって…
あなた!なんていいお鼻なのー!カウンターから女主人が。
マツノキノスミなのよー!
へ???
そしたらつかつかとやってきて、これご覧になって、と缶を渡してくださった。
あ、すみません、ありがとうございます!
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まぁなんて鼻なのかしら?そうなんですよ、ちょっと珍しいの、イギリスでもフランスでも、こんな風に松の木で燻したお茶はありません。
明らかにご主人は面白がって喜んでくれてニコニコ笑ってるので、なんだかよかったーと思う。
ジュエリーじゃなくて、調香師にでもなればよかったんじゃない?よかったね、ここではふんふんやっても怒られない(笑)
そう言って先生は、お礼といってはなんですけど…とさっきのチョコレートを持ってカウンターに行き、お裾わけ。
お茶を巡るお話しで、小さなカフェの空間はまあるくなる。
さっきのお酒、ブランデーじゃなくってウイスキーっておっしゃってましたよね?
そうでしたね。ウイスキーは樽だから、きっと松の木の炭と相性がいいんでしょうね、先生は言う。
…クスミチョフってあのフランスのクスミですか?
そうー!クスミティーね、販売はフランスなんですけれど、調合はロシアなんですよ、こちらの缶ね。
棚に並んだカラフルな、わたしが知ってるのの何倍も大きな立派な缶たち…。
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何口か目には、レモンピールが勝つようになった。
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二番茶もよろしかったら、と黒いポット。
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二番茶は、うん、葉自体の味。
こだわる人達は二番茶は棄てるって言うけど、ねぇ?
そうですよ、これは、これの味がしますよね、最後はちゃんと葉っぱの味を…。

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すっかり堪能して、カップを手にうっとり空間に溶け込む…。


そうだ、この絵好きだった…なんでだろうこの手のはあんまり趣味じゃないのに、やっぱり好きだよな…
それにこのカップ!
もう一年半前になるのかな、作品つくるのにイメージしてたまんまの持ち手じゃない?絵柄まで…
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1st termという初めてのシーズン。わたしは陶器のジュエリーというテーマをグループ展企画に参加する生徒さん達に出したのだけれど、その時、わたしが作るなら…と考えてた2つの案のうちのひとつ。
もう片一方は、今制作中のCookie Cookie
「 take me and kiss! 」というタイトル。既製品の、なるべくクラシックな感じのカップの持ち手だけを切り出して、
そのままブローチにする、あたかも身体から取っ手が生えてるかのように。
持ち手には、タグを引っ掛けて、それに「 take me and kiss! 」と書いて、プラプラと揺れるチャームにする、ティーカップになった自分を誰かが(?)ピックアップして口を近づける…というストーリー。そのジュエリーのケースにはソーサーがちゃんと入ってるというパッケージ…。
でも、わたしは左利きだから、実際よくこんな風に持っちゃうんだけど…。
あらだったら、ちゃんと持ち手を回せばいいんじゃない…。
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………
さて、そろそろ行きます。
そうだ、先生はお忙しいのだ。
あっという間…紅茶二杯分、えっ?正味一時間に満たない時間?
なのに、だけど、なんだろうあまりにもたっぷりな…これ以上はもう頭が満腹。
たっぷり遊んだ一日の思い出のような…飽和した時間?


…ドアを開ける。
眩しくて一瞬目を細めたら、先に出ていらした先生が、
これ、撮ってください、と入口のマットを指差す。
???こんなことはたぶん初めて。先生とお知り合いになって、たぶんもう4、5年は経つけれど。
なるほどね、映画のカットのように、シーンのように、か、先生はニッと口の端で小さく笑って、ちょっと気にいった小物を拾い上げるように言う。
わたしは、先生が自分で撮らずにわたしに撮らせることに何か意味があるんだろう、とは思ったけれど、その時はよく分からず、なんだか夢見心地で頭がボワーンとしていたし、このお店のオープンとクローズの時間でもプリントしてあるのかしら?などど考えながら、パシャっと一枚撮って、駅に向かう先生と並んだ。

でもそれは隠し味のスパイスを最後に振りかけているようで、道にパンを落としていくようで、帰り道が分かるように山道で小枝を折って行くようだ、と言ってみるならそんな風に、そこになにか強い不思議な匂いを感じたのは覚えている。

そのあと寄った古着屋で求めた明るい空色のデニムのスカートは、
レジで店員さんと話してたら、デンマークのBLUE WILLI’Sというブランドのものらしかった。
また北欧来た(笑)

ボワーンとする頭は、電車に揺られてだんだんと醒めて、
十番で扉が開いた途端、セットした目覚ましが鳴り響くように!!!!!が尖って頭に刺さる。
あの雑誌!
一体なにが書いてあったんだろう?
よかった!先生は紙バックそのまま入れといてくれた。
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ナーガルジュナ(龍樹)、アウグスティヌス、道元が「時間」について言ったこと。
「過去は、過ぎ去ったものであるから存在しない。未来は、まだ来ていないから存在しない。
過去でもなく、未来でもない時間を現在であるとした時、もしそれが過ぎ去るのであれば、存在しないことになる。
従って、現在は過ぎ去ることのない唯一の時間であって、過ぎ去らないが故に永遠である」
「過去も未来も、すべてが現在のなかに含まれている」

物理学
「ボールを地上から真上に投げ上げる。
最初は勢いよく上に向かって飛んでいく。
徐々にスピードを緩め、最高点に達したところで一瞬停止。
下に向かって落ち始める。
最初はゆっくり、次第にスピードを速めながら落下。
地上に達したときのスピードは、投げ上げたときのスピードとまったく同じ。

この様子を撮影して逆回転して見ると、ボールの動きはまったく同じで区別がつかない。
物体の運動を記述する力学の世界での時間には、絶対的な過去、未来の区別はない」

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…。
なんだよ、こんなことが書いてあるぞ。
混乱する。
カフェでのこと…時の名前の味、香りと音…その中で灯っては消え灯っては消え…クルクル立ち昇る過去と現在と、そしてまだ作っていない作品のある光景…それとぼんやりそこにあるなにか、匂いだけするなにか…それが雲がほんの少し薄くなるみたいに、すぐそこに同一地平面上にある?みたいにちらっと垣間見えるような不可思議な感覚…時間が時空間がゆがむ?膨張する?なんなんだろう?時間が繋がる?でも上手に意識が保てなくて、今頃こうやって種明かしが来るようにその配置を隠してる…配置?配置ってなんだ?
未来も同じ地平にあったっていいのかしら?
そうだ「過去も未来も区別がない」っていうのはすごくしっくりする。
「現在が永遠」という表現はしっくり来ないけど…「過去」と「未来」というカードは無くて、全部「今」という窓口しかないっていうのはすごくしっくり来る。
「今」という沢山のドアが一斉に開いたプラットフォーム…
…ジャンクション…いや、こっちの方がしっくり来るかしら。
さっきのカフェでは、まるで交差点の真ん中にいるみたいだった…。
見ていると、過ぎ去った映像なのか?これから来る映像なのか?全部が同じ強さで、入れ替わり立ち替わり、匂いのせい?音のせい?みんな同じ鮮明度で、頭がグルグルした…こういうの走馬灯のようにっていうのかしら?それとも白昼夢?
…そうだ!マット!
ホームのベンチでさっき撮ったマットの写真を探す。
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やんなっちゃう…
今日って書いてあるじゃない…。
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さっき全部そこにあったのに、でもわたしはその時答えのピースが同時に見えない。スモークを焚く。なんてじれったいんだろう。ちょっと先に遅らしてから、“発見”させようとしてるんだ。「未来」を作ってる、「未来」に先送りしてる。その方が知ってるやり方だから。今までやってきたやり方だから。ジャンクションに立ってるのに…。


おなかが急激に空いたのに気がついた。
時の名前の欠片。
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エスカレーターは上がっているのか?下がっているのか?
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スタジオに帰ってから空腹感がさらに吹き出す、ヨガの前だというのにどっさり食べてしまう。




………
レッスンが終わった時、今日はね~と先生。
ミナサマ、今日はですね、私のウン回目の誕生日でゴザイマス!
わ!おめでとうございます!ヨガマットをクルクルする手がパチパチに、ニコニコが一瞬で伝染する♪
(笑)…でね、この前着てたのはブータンのTシャツ、あれは可愛いから好きなんだけど、
ブータンではね、誕生日というのは誕生日の人がみんなに感謝の気持ちを表す日なんですって。
ちいさな子供もキャンディーとか、みんなに配ってた。
どんな気分なのか?実験してみたくてね、モノっていうのもなんなんだけど、私もやってみることにしたんです!
みんな思いがけないことでびっくり!
でも、ハイ!とひとりひとりにプレゼントを手渡してくださった時には自分の誕生日を明かして、今度は私が!なんて和気藹々、ますますほっこり暖かい気分に包まれる。

…まぁでも先生、生徒さん全員にね、こんなに…、ちゃんと贈り物って包装になさって、こちらはありがたいけど、ねぇ、ほんとに大変なことなさって…
そんなことないよ(笑)。だって今日のクラスだけだもん。火曜日のクラスも、他のクラスにもしないから。今日お休みの人にもあげない(笑)、あげないっていうのもなんだけど、今日お逢いできた人だけっていうのもいいでしょ?

今日は朝のクラスからこうしてやってみてるけど、実験の結果としてはね、とってもいい気持ですよ。

片付けの手際が悪くてわたしは大体いつも玄関で最後になってしまうのだけど、
靴を履いて振り返ったら、小柄な先生の目がぴったり目の前にあった。
今日という日は一年でたった一回のチャンスなの、だからよかったら、誕生日有効活用してみてね。
みんなからすごい素敵なもの返ってくるよ、出てくるのよ、なにかが。
…先生。
わたしも味わってみたいです。やってみます♪
嬉しくってハグしたい衝動にかられたけれど、瞬間まだお会いして日も浅いと引っ込めてしまった。
その代りに、ほんとにおめでとうございます!ともう一度言ったら小学生みたいに大きな声が出てしまって、同時に涙が出てきてしまったから、慌てて大きく笑ってごまかした。
ほら、すごい出てる、先生は顔中全部笑ジワになって言う。
来週またお願いしまーす!
全部言葉にしなくても通じてるって感覚、先生は自分を開くことからみんなに伝える、包む。
今にいて、足や手の指を木の枝や根のように大きく広げて開いて、リラックスして全部と繋がるように。



…「今日」のマットはさっきは、「今」のことだけかと思ったけれど、
ほんとに「今日」のことだったんだな、って駅のホームで、今度は幾分か冷静に思う。
先生はさっき、
「誕生日という日は、一年でたった一回のチャンス…」とは言わなかった。
今日という日は、って言ったんだ。普通だったら、誕生日という日は、って言ってもいいはずなのに…。
不思議だな…、ほんとぴったりなんだもん…。
登場人物はほんとは同じ人なんじゃないかと思っちゃうよ、ストーリーが分かってて、同じ役者が違う役を演じてる…。


映画のワンシーン、パズルの1ピース、ブータンの寺院でお坊さん達が描く砂曼陀羅の一粒…
みんな「今」という欠片が全部集まって、全部ぴったり合わさって繋がると、どんなストーリーだったのか、絵だったか分かるというアート。

欠片は順番に撮られて嵌められていくと思ってもいいのだけど、そうでなくてもいいって思うのもなんかとても面白い。
どの順番でも、別にかまわないし、最後に絵を見るのに描いた順番の区別はないと知ったら、そんなことに惑わされないで、そこに今見えてる絵のラインの繋がりが見えるのかもしれない。




電車が来た。
もうこの時間、空き空きの車内でホッと座って、心地よい肉体的な疲労感にあくびも出る。
またスマホの写真を見ていたら、あのカフェでカップと共に見上げた絵。
あぁ、なんだ…
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「 take me and kiss! 」って、ほんと、
なんだよ、ずっと前からここで、この絵が言ってるじゃない。あーなんということだろう。
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…いやずっと前じゃないんだ、その「今」とこの「今」のラインが繋がって描かれていたんだって、


今、わたしが気がついただけなんだ。
今日。


そんな絵を、
繋ぎ合せているんだ。


…ううん、そうじゃない、
絵は繋ぎ逢わされる

わたしは今手の中に落ちてきた欠片を、
見つめてる